イントロダクション

 避妊や去勢などの手術を始め、歯石除去、内視鏡検査など様々な状況で麻酔が日常的に行われております。その反面多くの飼い主が麻酔に対し不安を抱いているのを常に肌で感じております。確実に安全な麻酔は残念ながら存在しませんが、かといって危険だらけというわけでもありません。麻酔の安全性を少しでも高めるための取り組みも含め、当院での麻酔の手順をご紹介致します。

麻酔前の検査

外見では判断できない体調の異常の有無をチェックします。血液検査では白血球・赤血球・血小板などの血液の細胞数の異常と栄養状態・血糖値・肝臓や腎臓の機能を調べます。また心電図検査では心拍数・不整脈などの異常を調べ、それぞれの検査に問題がなければ、実際の麻酔にはいります。また必要に応じ、血液凝固系の検査やその他の検査を行う場合もあります。

麻酔導入

カニューレーション
麻酔薬の注射や麻酔中に必要に応じて薬が投与できるようにするため、カニューレを血管に留置します。


(左:カニューレ、右:カニューレをしたところ)

麻酔薬の注射
当院で使用している麻酔薬は、プロポフォールと麻薬指定の塩酸ケタミンです。どちらも安全域が広く、覚醒が早いのが特徴です。それらの麻酔薬に心拍数の上昇や気管分泌の抑制のためのアトロピンと鎮静効果のあるミトラゼパムの合剤を注射します。


(左:麻酔薬、右:注射している写真)

気管チューブの挿管
およびガス麻酔による
維持
注射麻酔で動物はすぐに横たわますが、更に安定した麻酔を維持するためにイソフルレンというガス麻酔に切り替えます。その際気管に気管チューブと呼ばれるビニール製の管を挿入し呼吸がしやすい状況を確保します。


(左:気管チューブ、中:実際挿管しているところ、右:気管チューブのレントゲン)

麻酔中のモニター
麻酔モニターでは以下のパラメータを測定しています。
  • 呼吸系パラメータ
    • 呼吸数:麻酔が深すぎると減少、逆に浅かったり痛みを感じると増加します。
    • SpO2:血液中の酸素の取り込み具合を測定します。呼吸状態が悪いと酸欠となり数値が下がります。
    • ETCO2:血液中の酸素が減少する前に二酸化炭素が増加します。呼気中の二酸化炭素の濃度を測定します。
  • 循環系パラメータ
    • 心拍数:麻酔が深すぎると減少、逆に浅かったり痛みを感じると増加します。
    • 血圧:麻酔濃度や手術時の痛みに上昇・低下を伴います。
    • 心電図:低酸素や低血圧および薬剤など様々な要因で不整脈の発生が起きる可能性があります。自律神経のアンバランスから急に徐脈を発生する場合もあります。
  • 代謝系パラメータ
    • 体温:通常は体表面からの熱の放散、熱の産生低下、血管収縮などにより低下します。低体温が長時間に及ぶと麻酔の覚醒等に影響します。
  • その他のパラメータ
    • 麻酔濃度:呼気中の麻酔濃度を測定し覚醒時のタイミングを計ります。

麻酔中の監視を簡単に言えば、きちんと呼吸をして酸素が取り込めているかどうか(呼吸系パラメータ)。また取り込んだ酸素が血液によって体の隅々に運び込まれているかどうか(循環系パラメータ)。また低体温によって循環器、腎臓、肝臓、中枢神経、免疫系に影響を与えないか(代謝パラメータ)をチェックしているのです。


(左:機材、中央&右:モニター装着時)

麻酔中の体温の維持
麻酔中は必ず体温が下がります。当院では体温低下を防ぐため人体の手術で使用している温風加温ヒーターを導入しています。通常のヒートマットより温熱の偏りが少なく効果的に保温が可能です。


(ベアーハガー)

緊急時の対応
もし麻酔時のトラブルが重篤な不整脈まで展開した場合、最終的な対応として除細動器を使用します。これと似た機器にAEDが公共の場所に設置されています。


(除細動器)

麻酔の覚醒
手術や処置が終了したと同時にガス麻酔を切り酸素のみで呼吸をさせていると、体内からガス麻酔が呼気中から排泄されて体が動き出します。それと同時に気管チューブを抜きある程度動けるようになったらケージに戻し、確実に覚醒したか観察します。


(左:抜管したときの写真、右:術後30分の写真)

手術の内容によっても覚醒は異なりますが、上記の写真は通常の体調で行われた避妊手術です。

以上が麻酔が終了するまでの手順です。

この様に日常的には無事に終わる麻酔ですが、冒頭でもお伝えした通りごくわずかですが麻酔の覚醒に支障を来した症例も経験しております。 それは検査でも正常、外見も問題ないケースで、麻酔中のモニターでも異常が現れなかったのに、麻酔からの覚醒に異常に時間を要し、覚醒後も一時的に神経系に支障を来したケースが猫で2例ありました。私見ですが興奮をしたり緊張しやすい動物はそうでない場合に比べ麻酔中に血圧や心拍数が変動しやすい傾向にあり、まれなケースではあると思いますが、事前に予測が難しいため、飼い主の皆様にはその様な事例も含めインフォームドコンセントで説明させて頂いております。

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